とある莫迦の戯れ言

映画感想や書評を垂れ流してます。

映画『サニー/32』感想

拝啓、愛しのサニー様。あなたを拉致します

サニー/32

サニー/32

 

 

【あらすじ】

冬の新潟の或る町。

仕事も私生活も振るわない中学校教師・藤井赤理(北原里英)は24歳の誕生日を迎えたその日、何者かに拉致された。

やったのは二人組で、柏原(ピエール瀧)と小田(リリー・フランキー)という男。

雪深い山麓の廃屋へと連れ去り、彼女を監禁!小田は嬉々としてビデオカメラを回し、柏原は「ずっと会いたかったよ、サニー……」と、そう赤理のことを呼んだ。

“サニー”とは―世間を騒がせた「小学生による同級生殺害事件」の犯人の通称だった。

事件のあらましは、当時11歳だった小学生女児が同級生を、殺害したというもの。突然、工作用のカッターナイフで首を切りつけたのだ。 

事件発覚後、マスコミが使用した被害者のクラス写真から、加害者の女児の顔も割りだされ、いたいけで目を引くルックスゆえに「犯罪史上、最も可愛い殺人犯」とたちまちネットなどで神格化、狂信的な信者を生み出すことに。

出回った写真では、独特の決めポーズ(右手が3本指、左手は2本指でピースサインをつくる)も話題を集め、それは信者たちの間で「32(サニー)ポーズ」と名付けられ、加害女児自体も“サニー”と呼ばれるようになった。
奇しくも、この“サニー”の起こした事件から14年目の夜に二人の男によって拉致監禁された赤理。

柏原も小田もカルトな信者で、二人は好みのドレスに着替えさせ、赤理の写真や動画をネット上の「サニーたんを愛する専門板www」にアップ。

赤理は正気を失っていきながらも、必死に陸の孤島と化した豪雪地帯の監禁部屋から脱出を試みる。

【感想】 

予告編が神すぎたんだ……仕方がない……

youtu.be

これを見る限り、サニーっていう殺人犯の信者の男二人が、サニーを思うあまり彼女を拉致監禁。サニーも初めは戸惑ってこそいたが、段々と殺人鬼として覚醒していく……しかし、そんな中、第二のサニーが現れて……みたいな話だと思うじゃないですか! 

実際は男二人に拉致監禁されるのは序盤だけで、すぐに信者が四人くらい増え、そして無関係の一般人が二人仲間に加わります。

そして……これ、サイコホラー風サスペンスに見えるけど、実際はB級ホラーサスペンスです。はい。

 

 

個人的に良かったかな、って思ったのは、ピエール瀧さん演じる柏原さんと、信者間唯一の女性、通称『レズ』ちゃんのキャラクターでした。

柏原さんは、女性恐怖症で、愛情を『暴力』でしか表現できない、ある種変わった人でした。しかし、サニー(藤井赤理)に「お前は人を愛することができる」と言われ、それからはサニーの純情な僕として過ごしていく。

最後には、サニーとの隠れ家である海の家に踏み込んできた警察と、拳銃を持った人々からとサニーを庇って死亡する。最期のことは「行け、サニー」だった。

どうしてそんなに柏原さんが好きなのか、と言いますと、後半で、実はサニー(藤井赤理)が本当のサニーではない、と判ったとき、レズちゃんやほかの信者は「偽物だったのか」と落胆する中、彼だけが『サニーが偽物だろうと、本物だろうといいじゃないか。たとえ偽物だろうと、サニーは俺らのサニーだ』って訴えてたからなんです。

つまりは、愛する対象が、虚像であるサニーから、自分を「人を愛することが出来る人間」と行ってくれた、サニーという人間(つまりは藤井赤理)へと変化した、っていう訳なんです。そういうところが、誰よりも人間らしくて、とっても素敵だ、と感じたのです。

さて、レズちゃんは、『サニーがいじめのカルマを断ち切ってくれた』とし、サニーに恋愛感情を抱いている女の子です。サニー覚醒の時、サニーが行ったディープキスに「一生生きていけます」と感激し、それからはサニーの右腕として生活する。

そして、サニーが偽物だ、とわかったときには「あのキスはなんだったの?」と悲しみ、「私、貴方を許すことが出来ない」とサニーに拳銃を向けようとしたところで、警官によって射殺。

すごく好きです。彼女もまた、傷付いて、悲しんで、葛藤の果てに死んだ人なので。なんか人間くさくて、好きです。

キャラクターは基本個性豊かですぜ親父。

 

あとは、『サニー』という立場に固執する藤井赤理、というのはすごく良いと思います。

『サニー』とは彼女にとって、注目を得るただ一つの手段でもあり、また同時に、家族のような存在をつなぎ止める存在でもあった。(現に、藤井赤理は『サニー』のように立ち振る舞い、インターネット懺悔を行っているし、『サニー』として振る舞うことで、信者たちと家族のように過ごしていた)

故に、新生サニーが現れたとき、かたくなにその存在を認めようとはしなかった。

その辺はとっても上手だと思います。女優さんの、新生サニーについて語るとき早口になる、という演技が全てを物語っていて、すごいなぁ。

 

ただ、後半の脚本はもう少しどうにかならなかったのでしょうか。

ドローンで空を飛ぶって。結局生徒のこと救えても居ないし。新生サニーの存在意義もないし。終わり悪けりゃ全てだめ、とはよく言った者ですね。