とある莫迦の戯れ言

映画感想や書評を垂れ流してます。

映画『彼女がその名を知らない鳥たち』感想

あなたはこれを、愛と呼べるか。 

【あらすじ】

十和子は言い知れぬ欲求不満を抱えながら毎日を過ごしていた。同居人である陣治が何の取り柄もない野卑で不潔な男であり、僅かばかりの給金すら貰えれば後は顔も見たくない存在だからだ。十和子はかつて恋仲であった精悍な男・黒崎を思い出しては嘆息を洩らすのだった。

そんなある日、故障してしまった思い出の腕時計について十和子がクレームをつけたデパート社員・水島が、詫びの品をもって家を訪れる。頑なな態度を崩さない十和子に、水島は濃厚な接吻を与えその心をとろけさせた。情事を重ねてか家を頻繁に空けるようになった彼女を叱りに、姉である美鈴がやってくるが、あくまで陣治は十和子をかばい続け美鈴に呆れられた。特に黒崎とよりを戻したかと疑う美鈴に、陣治は「それはあり得ない」と力を声にこめた。

そして、同じころ十和子は刑事の訪問を受け、黒崎が5年も前から失踪していると聞き驚く。真相を知りたくて黒崎の妻に会いに行く彼女は、そこで意外な人物と顔を合わせる。国枝というその老人は十和子を以前慰み者にした男だった。実力者である国枝の後ろ盾を得るべく黒崎は十和子を貢物として捧げ、その結果国枝の姪を花嫁に迎えた…そんな過去の記憶が十和子の胸によみがえった。思い出したことはそれだけではない。黒崎と別れた彼女が帰宅すると、陣治が「会社で殴られた」といって血に汚れた衣服を洗っていたのだ。

何か謎がある。戸惑う十和子は一方で水島の態度のよそよそしさに気づく。彼もまた十和子との関係を遊びとしか思っていなかったのだ。そんな裏事情を尾行によって得ていた陣治は、十和子に「また」えらいことになってしまう、と水島と手を切るように訴える。だが、十和子は陣治の言動に反発し、何かに憑かれたかのように水島に会いに出かけるのだった。陣治はなにを知っているのか。そして十和子が忘れてしまった事実とはなんなのか

 

【感想】

 

 同監督の作品、『サニー/32』を見た際、見た記憶があったので、ついでに。

 

kisaragihaduki.hatenablog.jp

 

 原作は一度読んだことがあるんですが、原作にとっても忠実だったと思います。

 蒼井優さん演じる十和子は、性格のひねくれた、過去の男のことが忘れられない最低の女で。阿部サダヲさん演じる陣冶は、不潔で下劣でありながらも、何処までも十和子のことを愛しているまっすぐな男で。

 俳優さんの演技も勿論なんですけど、カメラワークやふとしたシーンからもそういうことが伝わってきて。原作ファンも大満足です。ほくほく。

 

原作では、『十和子の愛した男たちと、その末路』に重点を置いていましたが、

映画版は『十和子という女を愛した陣冶という男』を重視している。

だから、陣冶と十和子の出会いや、まだうまくいっていた出来事のこと、十和子の殺人を隠蔽するために奮闘する陣冶などの様子を、落ちていく陣冶の走馬灯のような形で視聴者は見ることになる。

ただ。最期の、十和子が言う「陣冶――私の、たった一人の恋人」っていうのは、蛇足のように思いました。原作でのあれは、三人称で書くからこそ、陣冶と十和子の関係性がぐっと伝わるのであって、十和子本人に語らせては、陳腐というか……酷く説明的なように感じられました。最後までの芸術的ですら在る、陣冶の走馬灯と、陣冶の落下シーンがバラバラと崩れちゃう。

 

ラストシーンは本当に綺麗です。下手な芸術作品の数倍は綺麗だと思います(僕調べ)

閑静な丘の上。黄昏色の空。ベンチに座り込む、薄幸そうな女性。ゆっくりと落ちていく男と、それに伴って飛び立つ鳥。言葉では説明しきれないくらい、美麗でした。

監督はセンスあると思います。

 

それ以外で個人的に良かったのは、水島ですね。

原作では、口孔フェチの不倫男で、最後には十和子には刺されそうになるは、陣冶には「お前、もう二度と十和子に寄りつくなよ!」怒鳴りつけられるは。少し散々な目に遭う役柄でした。言っちゃああれですけどかませ犬ですね。

けれど映画版では結構屑度合いが増してます。(そもそも元も結構屑なんですけれど)

口孔フェチの不倫男、っていうのはそのまま。中国製のばった物の時計を十和子にプレゼントし、不倫で彼女をはちゃめちゃにした挙げ句、自らの不注意でしたなくし物を、十和子、および陣冶の仕業ではないか、と疑い、最後には奥さんと寄りを戻したのにもかかわらず、十和子と性行為に及ぼうとし、十和子に刺される……っていうですね……。

原作もそういう感じではあったんですけれど……松坂さんの技量なのかしら。より一層屑っぽく見えてしまいました……。

でも、「陣冶か、なんだか物を盗みそうな名前だな」っていうギャグ?は結構センスあったと思います。好き。