とある莫迦の戯れ言

映画感想や書評を垂れ流してます。

映画『パーフェクト・ブルー』感想

――私は、本物だよ!

 

【あらすじ】

アイドルグループの「CHAM」に所属する霧越未麻(きりごえ みま)は突如グループ脱退を宣言し、女優への転身を計る。未麻は事務所の方針に流されつつも、かつてのアイドルからの脱却を目指すと自分を納得させる。初出演のドラマはセリフが一言だけの端役から始まり、続いてレイプシーンを演じることとなる。さらにはヘアヌード写真集のオファーが来るなど、アイドル時代からは考えられなかったような仕事をこなしてゆく未麻。「CHAM」以来のファンたちは未麻の厳しい現状を嘆くが、彼女の女優生活は次第に軌道に乗り始める。しかし、人気とは裏腹に未麻は現状への不満を募らせ、アイドル時代の自分の幻影さえ見るようになる。レイプシーンやヘアヌードは本当の自分の姿なのか。自分が望んだことなのか。そんな疑問を抱く中、インターネット上に未麻になりすました何者かがウェブサイトを開設。しかしその内容は虚実を織り交ぜつつも、まるで未麻本人が書いたかのように詳細を極めていた。未麻はストーカーに監視されていたのだった。「アイドルとしての未麻」が更新を続けるウェブサイトを見て、未麻は精神的に追い詰められる。また、未麻の事務所に手紙爆弾が送りつけられたり、関係者が次々と殺される事件が発生する…… 

【感想】

やっぱり今敏は天才だったんだ……。

精神疾患』や『本当の自分とは何か』、『アイドルの過激なファン』など、今でも時折話題になる問題を今敏監督の視点から描いた今作。

監督独特の奇抜な演出や、実力派声優さんの演技によって恐ろしいほどにリアルに描かれてます。

 

ミマが今居る現実と、ミマが『陽子』という名で出演しているドラマ、「私が本物」と主張するミマが現れる夢の中。そして、真犯人の思い描く幻想。その三つが混合していって、視聴者ですら、今、何が起こっているのかは判らない。アニメ映画の中でも、結構前衛的な作品だと思います。

(途中にあった、ミマがCHAMのメンバーとして踊る姿はストーカー∪ルミちゃんの描いた幻想、ってことで良いんだよね多分……)

 

私は今敏監督信者なんですけど、贔屓目無しですごいなー、って思ったのは、ミマのパートでは、「貴方は汚れた」と告げる、アイドル時代の『幻想』を映し出す鏡が、ルミの視点では、肥満体型の元アイドルで、不細工なマネージャーという『現実』を映し出すものになっている、っていう構造ですね。

ミマが鏡に映ると、幻覚が映って、ルミが鏡に映ると現実が見える。恐ろしい作りですよ、これ。でもこれも最後(精神病院のシーン)では、ルミが鏡に映ったときも、ルミ自身が思い描くミマの幻覚が見えているんですけどね。そこはもう少し貫いて欲しかったな。

 

結構怖いな、って思ったのは、CHAMメンバーがミマに対して、陰で揶揄するような発言をしていたことと、本物のミマを刺そうするときのルミの手付きです。

前者は、過去の回想では「私達は仲良しよ!」って感じできゃっきゃうふふしてたのに、引退して、すこーし怪しげなこと始めたらあっさり裏切る、人間って怖ーい。

後者については……あのですね、なんか……最近のドラマや映画の比にならないレベルで、動きがリアルだしガチで殺しに来てる。恐ろしい。確実にミマをさしてやるっ、ていう執念が感じられて只管恐ろしかった。

 

ラストシーンは……様々な解釈があるみたいですね。

個人的には、未だ、自分という存在を獲得することの出来ていないルミに対する、勝利宣言のように感じられました。ルミは一生、ルミという人間にはなれず、『ミマのまがい物』として生きていくのに対して、ミマ自身は、女優である、ミマという自分を獲得しているのに優越感を覚え「(貴方は私の偽物だけど)私(だけ)は本物、だよ」という意味合いで言葉を発したのではないか、と私は解釈いたしました。

 

すっごく、私自体は大好きな作品なんですけど、「人に勧める」となると、少し気の引ける作品ですね……矢張り。

だって! エッチな描写とか! グロ描写とか! メチャクチャ多いんですもん!!

いや、まぁ……ガチのR-15作品(我が家の近所にあるレンタルショップではNOレイティングだった)に比べたら全然マシなんですけど……。

開始四十分でヒロインのレイプ(演技とはいえ)シーン、中盤にはアイスピックで滅多刺しにされるおじさんに、後半には実際にレイプされそうになるヒロインと、鏡でおなかをすっぱりやるおばさん。結構死体もゴロゴロしてます。親とみてたので滅茶苦茶気まずかったです。

これに関しては監督も『少しやり過ぎた』と仰ってるみたいです。デスヨネー。